(2倍速)
聖書 コリントの信徒への手紙第1・1章18~25節、ヨハネによる福音書3章13~21節
十字架の言葉は、滅んでいく者にとっては愚かなものですが、わたしたち救われる者には神の力です。(Ⅰコリ1:18)
神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された。独り子を信じる者が一人も滅びないで、永遠の命を得るためである。(ヨハ3:16)
「神の知恵、救いの言葉」
本日私たちに与えられた御言葉、ヨハネによる福音書3章13節から21節は3章1節から始まるイエス様とニコデモという議員の問答の続きです。少し振り返りたいと思います。ニコデモはある夜、イエス様のところに来て「あなたは神のもとから来られた教師ラビです。」(2節)と言いました。するとイエス様は「人は新たに生まれなければ神の国を見ることはできない。」(3節)と言われました。この言葉を聞くとニコデモは「年をとった者が、どうして生まれることができましょう。もう一度母親の胎内に入って生まれることができるでしょうか。」とイエス様の言葉を否定しました。これに対してイエス様は「だれでも水と霊とによって生まれなければ、神の国に入ることはできない。」(5節)と言われました。それを聞いたニコデモは「どうして、そんなことがありえましょうか。」と再び否定しました。イエス様はニコデモに「あなたはイスラエルの教師でありながら、こんなことが分からないのか。」(10節)とよく考えるよう諭しました。これが本日の箇所の前の部分にある二人の問答です。そして本日与えられた13節から21節に入ります。この箇所はすべてイエス様の言葉です。
13節の「天から降ってきた人の子は天に上る」というイエス様の言葉は十字架の死を暗示しています。14節は13節を旧約の出来事と結びつけて説明しています。民数記21章8節に「モーセが荒れ野で蛇を上げた」という出来事が記されています。荒れ野の蛇は土や砂の中に隠れていて突然人を噛み、噛まれた人は必ず死んでしまいました。人々はいつ蛇に噛まれて死ぬか分からないという恐怖に陥りました。それは突然訪れる死に対する恐怖です。そこでモーセが民のために主なる神に祈り、主の言葉通りに青銅で一つの蛇を作り、旗竿の先に掲げました。噛まれた人がその蛇を仰ぐと命を得ました。これはイエス様の十字架を仰ぎ見て命を得ることを暗示する出来事でした。15節に「信じる者が皆、人の子によって永遠の命を得るためである。」と書かれている通りです。
16節と17節には良く知られている重要な言葉が書かれています。「神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された。独り子を信じる者が一人も滅びないで、永遠の命を得るためである。神が御子を世に遣わされたのは、世を裁くためではなく、御子によって世が救われるためである。」という言葉です。神はご自分の創造した世界を滅びから救うために、何度も預言者を送り、また神に背く者たちを滅ぼしましたが、人間は罪の束縛から抜け出ることができずに、何度も神に背きました。そこで神はご自分の独り子を被造物の世界に遣わし、独り子を犠牲にすることで世を救おうとお考えになり、それを実行なさいました。この世界の現実を見れば戦争や迫害や差別がいろいろなところにあり、世界は悪い方向に向かっていて、滅んでしまうのではないかと不安になるかもしれませんが、神の支配はこの現実の中にあり、この世をお救いになるという神のご計画は進んでいます。
13節から17節のイエス様の言葉は、ユダヤの議員ニコデモの「年をとった者が、どうして生まれることができましょう。」という問いに答えています。それはこう言うことです。15節の「それは、信じる者が皆、人の子によって永遠の命を得るためである」という言葉を解釈すると「信じる者は皆、イエス様の十字架によって永遠の命を得る」と言い換えることができます。ここに3節のイエス様の言葉「水と霊とによって生まれる」ということが「信じる」と言う言葉で表現されているのです。つまり「信じる」ものの中身は「イエス様が天から来られたお方で十字架の苦難の後によみがえられて天に上られたことを信じる」ということです。このことを信じる者は新しく生まれて、もはや自分自身に命の基盤を置かず、神の言葉に命の基盤を置く新しい存在となります。このことの目に見えるしるしは洗礼です。洗礼志願者は会衆の前で信仰を告白し、水と霊とによって洗礼を受けるのです。
18節から20節は裁きの言葉です。罪のうちに留まっている人々は既に裁かれています。欲望で自分自身が満足できない者になってしまっています。いわば底なしの欲望の泥沼に入って抜け出すことができなくなっているような状態です。そのような人たちは自分たちの行いが明るみに出されるのを恐れます。
しかし神とイエス様を信じ真理を行なう者は21節にあるように、光の方に来ます。そしてその行いが神に導かれてなされたということが明らかになり、祝福を受けるのです。
しかしながら、目に見えるイエス様の十字架は、恥と嘲笑を受けて惨めに死んだ罪人の惨めな姿です。人々はイエス様こそユダヤを解放してくれる人だと思い込み、そして裏切られたことに腹を立てて、イエス様を罵り、十字架につけろと叫びました。ユダヤの権力者たちは自分たちの立場が脅かされることが無くなり「やれやれ、厄介者がいなくなった」と言った具合に安堵しました。ローマ兵たちは十字架を執行することでユダヤでの権力と権威を見せつけました。
ところがこの十字架こそが命に至る道なのです。教会を建て上げたパウロはコリントの信徒への手紙第1の1章18節に「十字架の言葉は、滅んでいく者にとっては愚かなものですが、わたしたち救われる者には神の力です。」と書きました。その根拠としてパウロは19節に書かれているようにイザヤ書29章14節の言葉を引用します。神は「知恵ある者の知恵を滅ぼし、賢い者の賢さを意味のないものになさいます」(19節)という言葉です。
滅んでいく者とは神を見ずに目に見える現実だけを見て自分の損得勘定で生きている人々のことです。自分中心の生き方と言えるでしょう。その人たちにとっては十字架に示された神の御心を見ることができず、当時のユダヤ人やローマ兵のようにイエス様の十字架を愚かなもと捉えることしかできません。一方、「わたしたち救われる者」には十字架に示された神の御心を知り、神の全能の力は人を救うためならばどの人よりも弱くなることさえできるという「まことの奇跡」を見るのです。
パウロはこのことをローマ帝国のいろいろな所で宣べ伝えました。これは神の御意思です。21節に「神は、宣教という愚かな手段によって信じる者を救おうと、お考えになったのです。」と書かれている通りです。パウロは聖霊に満たされてこの手紙を書いていますから、この言葉は真実です。そうでなければ2000年もの間、聖書が伝えられることはなかったでしょうし、これから先も聖書がなくなることはないと確信をもっています。
23節から25節に「わたしたちは、十字架につけられたキリストを宣べ伝えています。すなわち、ユダヤ人にはつまずかせるもの、異邦人には愚かなものですが、ユダヤ人であろうがギリシア人であろうが、召された者には、神の力、神の知恵であるキリストを宣べ伝えているのです。」と書かれています。ユダヤ人と異邦人は人類を代表しています。パウロはその人たちに「神の力であり神の知恵であるキリスト・イエス様を宣べ伝えている」と公けに表明しています。なぜならば「神の愚かさは人よりも賢く、神の弱さは人よりも強いからです。」(25節)。神の知恵や力は私たちの理解を越えています。そしてイエス様の十字架の贖いはまさしくそのようなものです。だからこそ私たちはイエス様の言葉や聖霊に満たされたパウロの言葉を聞いて自分の言葉にしなければなりません。
テレビドラマ『あんぱん』でアンパンマンが誕生するまでに10年以上もかかったことが描かれていました。人気が出ないアンパンマンにこだわるドラマの中の柳井嵩は「アンパンマンはかっこよくなっても、強くなってもいけないんです」と打ち明けます。彼には、正義を行うなら自分も傷つくことを覚悟しなければいけない、という信念がありました。
妻ののぶも「強さを見せつけて敵を倒すのではなく、自分を顧みず弱い人や困っている人を救うのが真のヒーローではないかと思うのです。アンパンマンは嵩さんにとって唯一信じられる正義の見方なんです。」と語ります。
アンパンマンは二人の辛い戦争体験に根差して生み出されたのですが、私は、なぜイエス様が敵対者と戦わなかったのか、なぜ十字架で死んだのかということを説明するのにとても良いキャラクターだと思いました。アンパンマンが何年も受け入れられなかったのは人々が正義を強さや、かっこよさに求めていたからでした。イエス様が十字架につけられたのは人々が強い王様を求めていたのに抵抗せずに罪人になったからでした。
敵をやっつけるというのはカッコいいのですが、やっつけられた方は町が壊され、人が死んだり傷ついてしまいます。悲しみや憎しみが燃え上がるでしょう。いったい正義とは何か。漫画家のやなせたかし氏は正義を具体化して「飢えた人に自分を犠牲にして食べ物を与えること」だと見抜きました。平和や幸せを追求すれば聖書の御言葉に近づくのだと思います。マザー・テレサは「大切なのはどれだけ心を込めてしたかです。今度はあなたが無償の愛の運び手となってください。」と語りました。心を込める行為は自分が傷つくことを恐れません。
私たちが傷ついたとき、イエス様はご自身が弱くなり傷つき、捨てられることによって私たちの傷を癒し慰めてくださいます。私たちは神との関係を回復していただき神の無償の愛が溢れるほどに注がれています。イエス様の十字架の贖いはこのことを示しています。